ご挨拶

ご挨拶

私たち21世紀に生きる現代人は、地球温暖化による世界規模の気象や環境の激しい変動の影響を被っている。多くの台風の発生、水による甚大な被害、熱波や山火事などは、経済・社会生活にまで色濃く暗い影を落としている。また感染症の恐怖を身近に再認識し、戦争の脅威も感じるなど、先行き不透明な未来を目の当たりにしながら、いつも通りの日々を過ごさねばならない。こうした不安定な世情の中で、各人が気づかぬうちに心の健康を損なっていくように思える。この精神の快癒に深く関わるものは、手を動かし、無心にものづくりをする本来人間が持つ力に他ならないだろう。

 産業革命による機械化、膨大な情報で溢れる情報社会にあって、私たちは人間性喪失へと向かった。こうした科学の進歩と共に人々の思考が専門化され偏狭化し、科学的思考と人文学的思考との乖離ができ、総体としての人間認識が薄れてきた。こうした乖離へ向かう人類にいち早く警鐘を鳴らしたのは、「地球温暖化」を発見したジョン・ティンダルその人であった。彼のベルファーストでの1874年の講演は、科学的思考と人文学的思考とは相補的な関係であり、乖離ではなく融和することが人として生きる上で重要であると主張していた。

 人間性のこうした回復は、狩猟社会、農耕社会、産業革命による工業社会、情報社会へと世界が変遷してきた中で、ダイバーシティを重んじ現代提唱されている持続可能な社会(SDGs)を目指す世界環境政策と共に重要である。それは科学知識を主体的に楽しむ新たな価値を生み出す社会への進化を示している。

 社会変遷が産み出した負の側面が顕現化している今こそ、人間の生命の泉のほとばしりである手工芸文化の重要度が浮かび上がる。美を追求し、作品の完成に向けて忍耐強く修錬し、作品を鑑賞者と共に悦び楽しむ人々の裾野を広げていくことこそ、大自然(宇宙)と共生する平穏で希望の持てる社会創造へと貢献できよう。

 「日本手工芸作家連合会」はこうした志の高い愛好家からなる組織で、長い伝統を持ちながら、若年層拡大にも努めている。一般人による手工芸文化活動を通じた草の根の心の再生のイノベーションにより、どのような時代になっても光を未来に投げかけていく。

公益財団法人日本手工芸作家連合会 会長 井上美沙子

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